「100均があれば十分」その幸せは本物なの? 専業主婦に差し伸べられた港区からの“禁断”の誘い

ミドリマチ 作家・ライター
更新日:2026-02-07 11:45
投稿日:2026-02-07 11:45

【戸塚の女・塚本優梨愛29歳#2】

 奈江は、かつての遊び友達で恋敵の優梨愛の新居を訪れる。誰もが振り向く華のある優梨愛だったが、結婚と出産を経て所帯じみていた。結婚相手も凡人、新居も郊外。奈江は育児に奮闘する彼女を見て優越感をおぼえるのだった。【前回はこちら

【関連記事】「世帯年収1500万じゃ恥ずかしい」御茶ノ水からの“都落ち”…武蔵小杉のタワマンを選んだ女のプライド【武蔵小杉の女・鈴木綾乃 35歳】

UberEatsが「贅沢」って?

 優梨愛が寝室からリビングに戻ってきたのは30分後だった。

「ベビちゃん、お昼寝しちゃったから、しばらくはのんびりお喋り出来るよ」

 彼女はすぐにタブレットを目の前に立ち上げ、赤ちゃん見守りアプリを開いた。どこがのんびりなのだろうか、と奈江は心の中でツッコむ。

「ねえねえ、お昼食べてきてないよね。せっかくだし、贅沢しない?」

 優梨愛は奈江の横に座ってUberEatsのアプリ画面を見せた。

「ピザとポテト、あと、ケンタッキーも頼んじゃおう」

 贅沢の価値観に驚きつつも、ワクワクしているところに水を差すのも気が引けた。せめてもの気遣いで奈江は同じようなテンションで盛り上がるふりをしてあげた。

「う、うん。おいしそうだね」

 聞けば、今は外食どころかテイクアウトや宅配が貴重な機会だという。価格もあるが、それ以前に、赤ちゃん中心の健康的な食生活だからだとか。ジャンクフード自体食べる機会はほぼないらしい。

1年前は港区にいたのに

 しばらくすると、注文の品がやってきた。優梨愛は配達員に丁寧にお礼を告げ、テーブルの上にごちそうを広げた。

「独身の頃に住んでいた街は、周りにお店も多くて外食もテイクアウトも楽しかったなぁ」
「そうそう、今でも毎日Uberでも飽きないよ」
「この街はどこにでもあるお店ばかりだからね。外食も宅配も代わり映えしない、というか…まあ、暮らしやすさはあるんだけど」

 到着したピザとチキンを頬張りながら、優梨愛は今住む街の暮らしを自虐した。駅についたとき、まさしくそう感じた奈江は思わず同意してしまう。

「そうそう。何もかもパッとしていないところだよね」

 この言葉を口にしたとたん、優梨愛は真直ぐに奈江を見つめてきた。すぐに撤回すべき発言だと奈江は気づいた。

「えっと、これはdisじゃなくて――」

 だが、次の瞬間聞こえてきたのは、優梨愛の聞いたことがない大きな笑い声だった。

「ほんとそう! ここね、一応は住所横浜だけど、ちょっと行くと鎌倉だし、だけども湘南って感じでもないし、どっちつかずの街なのよ」

 弾んだ声であったが、心の底から染み出た悲しい叫びに奈江は聞こえた。そして、彼女は小さな声でつぶやく。

「ふしぎー。私、1年前まで、南麻布や丸の内の中心にいたんだよね…」

ミドリマチ
記事一覧
作家・ライター
静岡県生まれ。大手損害保険会社勤務を経て作家業に転身。女子SPA!、文春オンライン、東京カレンダーwebなどに小説や記事を寄稿する。
好きな作家は林真理子、西村賢太、花村萬月など。休日は中央線沿線を徘徊している。

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


そのあえぎ声、どこまでが本当ですか?
 素朴な疑問、と頭に付ければ何を聞いても許されるとは思っていないのだが、失礼を承知で、どうしても聞きたいことがある。 ...
落ち込んだらシーラカンスのことを考えるといいかもしれない
 北海道で暮らす、まん丸で真っ白な小さな鳥「シマエナガちゃん」。動物写真家の小原玲さんが撮影した可愛くて凛々しいシマエナ...
お正月にしめ縄って必要かぃ?「しめ縄」と「しめ縄飾り」の違いも解説
 今年もあと2週間を切りました。年末だというのにあまりの暖冬、ここ数日は少しは寒くなったものの更年期のワタクシは、本職の...
「女は見た目がすべて」の思い出に悶々…容姿いじりのトラウマの克服法
「女は見た目がすべて」なんて言葉が昔からあるように、男性よりも女性の方が外見を厳しく見られる傾向です。そして残酷なことに...
人生初のぎっくり腰なぜ発症? 40女の激痛を救った意外なコスメは…
 齢46、人生初のぎっくり腰になりました。腰が砕け、身動きがまったく取れない状態に陥るって本当にあるんですね。  デス...
韓国は「ひとり飯」ほぼタブー! おひとり様=みじめな人認定で苦労した
 ちまたでは『孤独のグルメ』(テレビ東京系)や『ひねくれ女のボッチ飯』(テレビ東京系)、『めんつゆひとり飯』(BS松竹東...
2023-12-19 06:00 ライフスタイル
自然の石を積んだ石垣でできた江戸時代から続く「棚田の村」
 見知らぬ土地で、山道を越えて現れた見事な石垣に圧倒される。ここまで積み上げる労力を想像すると途方に暮れるし、これが自然...
“たまたま”とももうすぐお別れ…去勢前のおやつシーンを激写
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
#2 友達の結婚、喜べないのはなぜ? 勝ち組を裏切りだと感じてしまう記憶
【#1のあらすじ】  ミュージシャンの沙恵は高円寺に暮らし、芸人の卵や音楽仲間と毎日飲み歩いている。高円寺はうんざ...
#3 結婚で“輪”から去る友人への寂しさ。心地よい独身生活で失ったもの
【#2のあらすじ】  ミュージシャンの沙恵は高円寺に暮らし、毎晩芸人の卵や音楽仲間と飲み歩いている。高円寺はうんざ...
妙齢って何歳? 三省堂 現代新国語辞典のいまっぽい凡例に注目
 知っているようで意外と知らない「ことば」ってたくさんありますよね。「女ことば」では、女性にまつわる漢字や熟語、表現、地...
母親が施設から帰ってくる夢…認知症の予兆を「ボケたな」で済ませない
 コミックや書籍など数々の表紙デザインを手がけてきた元・装丁デザイナーの山口明さん(63)。多忙な現役時代を経て、56歳...
#1 夢を諦めきれない32歳の女。高円寺で燻る芸人らと酒に溺れる日々
 この街は、まるでネバーランドだ。  いつもの店に行くと、いつもの仲間がいて、相変わらずのバカな話で盛り上がれる。...
「最終的には学歴!」すごいですねー(棒)高学歴義母のマウントLINE3選
 義母が高学歴だとなんとなく上品でスマートな人柄が連想されますが、現実では学歴の高さと人格は比例しないようです。実際には...
2025-02-20 17:59 ライフスタイル
黄金色の葉と朱赤の柿の景色 心まで秋色に染まるような日
 秋は色鮮やかな季節。まるで黄金色のイチョウの葉、鮮やかな朱赤の柿。  心まで秋色に染まるような日だった。 ...
同僚のボールペン“カチカチ”に敏感反応!繊細すぎる人へのLINEどう返す
 世の中には、人一倍豊かな観察力や感受性を持つ人も存在します。そうした人は「優しい」「気遣いができる」などの長所をたくさ...