物事の終わりの「残念です〜」に、どう答えればよかったか。そして心に残る本当の気持ち。

新井見枝香 元書店員・エッセイスト・踊り子
更新日:2026-02-16 12:43
投稿日:2026-02-14 11:45

物事の終わりはいつも慌ただしい

 そうこうするうちに、ストリップ劇場も1つ2つ閉館して、そのたびに「残念です~」と、ほとんど劇場で会ったことのない人たちから声を掛けられる。そんなことを言われても、私にはどうにもできない。

 できるならもう、とっくにしている。そして今度は、隔週で配信していたラジオ番組が終了した。パーソナリティをクビになったわけではなく、これもまたえらい人がどうこうして、サービス自体が終了したのだ。よって、今までたくさんのゲストを呼んで交わした言葉たちが全て、消えた。

 それはかつてエッセイの連載をしていた「cakes」というWeb媒体も同じで、コツコツ書き連ねた大量の文章が全て、消えた。これらに関しても、「残念です~」に対応することに追われ、本当に自分は残念だったのかどうか、わからないままだ。物事の終わりはいつも慌ただしく、騒がしい。

 初めて閉店を経験した書店では、お店を閉めた日からが戦いだった。閉店作業は、滅入る暇もないほど大変だったのである。こんな経験をしてなお、また新たに始めようと思えるなんて、人間ってすごいな、としぶとさに感心する。

 全てを片付け終えた完全撤退の日、からっぽになった売り場で、大量にテイクアウトした飲茶を、みんなでもりもり食べた。そして広々とした店内で人狼ゲームをして、まだ残っていたプロジェクターに映し、壁一面のテレビゲームで遊び尽くした。

 終わりだからこその、やりたい放題だ。人間には時折、そういう〝終わり〟が必要なのかもしれない。終わりだけれど、それぞれが前を向いているような、妙な晴々しさがあった。

「残念です~」はいりません

 そういうわけで、「コクハク」は終了しますが、「残念です~」はいらないです。終わるのはたぶん、私のせいではありませんし、私ひとりががんばってどうにかできた話でもない。ここに書き連ねた文字は、ただ消えるのみ。

 そんなエッセイは死ぬほどある。私がきちんと管理しないから、あっちの雑誌、こっちのweb、と何年も書き散らかしっぱなしで、書いた本人がもう思い出せない。でもそれらは私の仕事で、得た収入で私はごはんを食べ、今に命をつないでいる。

 コクハクのギャラで食べた大好物の回転寿司や、原稿を送り終えたら飲む最高の生ビールが、私の血肉になっている。でも、死んで焼かれれば、それも消えてなくなるだけ。それでいい。何かを残したいとはこれっぽっちも思っていない。

 ただ、明日になればお腹が空くし、ビールが飲みたくなるから、仕事をしないとならない。それがまた「コクハク」連載みたいに、自分にとって愉快なものであれば、これ以上の幸せはない。ありがとうございました。

新井見枝香
記事一覧
元書店員・エッセイスト・踊り子
1980年、東京都生まれ。書店員として文芸書の魅力を伝えるイベントを積極的に行い、芥川賞・直木賞と同日に発表される、一人選考の「新井賞」は読書家たちの注目の的に。著書に「本屋の新井」、「この世界は思ってたほどうまくいかないみたいだ」、「胃が合うふたり」(千早茜と共著)ほか。23年1月発売の新著「きれいな言葉より素直な叫び」は性の屈託が詰まった一冊。

XInstagram

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


「見慣れる」ってこわい 散らかった部屋を眺めて考えたこと
 北海道で暮らす、まん丸で真っ白な小さな鳥「シマエナガちゃん」。動物写真家の小原玲さんが撮影した可愛くて凛々しいシマエナ...
日用品は見た目も大事よね♡ 好みの香りで良質な睡眠時間を
 コクハクリーダーズ1期生の「あんず」と申します。今回、ワクワクしながら新商品を使う機会に恵まれました。  日常生活で...
2023-12-16 17:32 ライフスタイル
コスパ最強!シクラメン超長生き育成術、この冬は美しい姿をキープさせる
 暖冬にも程がある2023年師走ですね。  カントリー風情たっぷりの立地にある猫店長「さぶ」率いる我が愛すべきお花...
温泉旅行を計画中! でも浴衣の下は何が正解? オトナ女性の3つの選択肢
 彼氏や女友達と楽しむ温泉旅行。最近では旅館に添えつけの浴衣が用意されているところも多いですよね。  でも浴衣姿で...
ふわっと何かが降り立った? 神々の宿る土地の光は優しい
 夜道を歩いていたら、ふわっと何かが降り立った気がした。  振り返ると黄色い稲穂が揺れていた。でも全然怖くはなかっ...
尾道の町並みより絶景也! 恥ずかしがり屋のクロ“たまたま”
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
悪臭漂う子どもの地獄汚部屋にもう限界!私がブチ切れた“ゴミ袋事件”の夜
 ステップファミリー6年目になる占い師ライターtumugiです。私は10代でデキ婚→子ども2人連れて離婚→シングルマザー...
ぼっちの年越し最高!大人の女性だからこそ許される“心の洗濯”プラン5選
 お正月といえば、恋人と過ごしたり、実家に帰省したり、賑やかに過ごす人が多いですよね。でも実は今、ぼっちでも一人のお正月...
『姑息(こそく)』本来の意味は“ずるい”ではなく、一時しのぎ
 知っているようで意外と知らない「ことば」ってたくさんありますよね。「女ことば」では、女性にまつわる漢字や熟語、表現、地...
ほっこり読み切り漫画/第63回「フクフクモフモフ規格外ナノダ」
【連載第63回】  ベストセラー『ねことじいちゃん』の作者が描く話題作が、突然「コクハク」に登場! 「しっぽ...
子、姪、甥への「お年玉適正価格」問題 親戚と決めた我が家のルールは…
 子供たちのお正月の楽しみといえば、なんといっても「お年玉」ですよね。でも、大人にとっては「親戚の子へのお年玉の額をどう...
【45歳からの歯科矯正】まじか。矯正8カ月で主治医から衝撃の提案が…
【これまでのお話し】 45歳で歯科矯正を始めようと思ったワケ(#1)/45歳女、5年越しにワイヤー矯正を決断!(#...
鮮やかな朱色にハッとする 見つけたのは秋が忘れていった物
 ずいぶんと歩いたけれど、ひときわ映える朱色にハッとして顔を上げた。 「秋の忘れ物」もきっと鳥に見つかって、最後は...
共働き夫婦はいつ洗濯物を干すのが正解? 一長一短な6つの選択肢
 現代では、多くの夫婦が共働きですよね。そこで問題となるのが「洗濯物をいつ干すか」という点です。特に朝からのフルタイム出...
「自信がない人」必見! 必要なのは“勇気”なのかもしれない
 突然ですが、みなさんは自信と勇気の違いって説明できますか? 私はよく自信がなくて悩むのですが、本当は「勇気のなさ」こそ...
節約は正義!家庭で過ごすクリスマスアイデア【飾りつけ編・レシピ編】
 一年の最後の大イベントといえば、やっぱりクリスマスですよね。特に子供のいる家庭では、部屋の飾りつけやパーティー料理など...
2023-12-07 06:00 ライフスタイル