夫婦という名の“支配者”と“服従者”…真由さんのケース#2

神田つばき 作家・コラムニスト
更新日:2020-01-11 06:59
投稿日:2019-09-22 06:00
 暴力や暴言ではなく、大きな物音や舌打ち、ため息や無視で真由さんを言いなりに動かすモラハラ夫との生活。目に見える傷こそ残らないものの、それは人間と人間の正常な関係ではありませんでした。すべて自分が悪いのだと思いこまされている真由さんはやがて……。

無視され否定され続けるうちに心身共にボロボロになって

自分が存在している実感のない家庭

 ドアを閉めて夫が会社に出かけたのがわかり、そっとダイニングキッチンに戻ると、お弁当がキッチンカウンターの上に置き去りになっています。「ああ、まただ……」と真由さんは落胆しました。

 夫はいったん機嫌を損ねると、口もきかず目も合わせず、まるで真由さんが存在しないかのような嫌がらせをするのです。せっかく作ったお弁当をわざと置いていったり、洗って畳んでおいたシャツや下着が、そのまま生ごみの中に突っ込まれていたこともありました。

 帰宅時に真由さんがうたた寝していた時には、苦情を言うかわりにボタンをかけたままワイシャツを脱ぎ捨てました。何度も力まかせにシャツを引っ張り、すべてのボタンがちぎれて飛び散りました。「それでも何も言わない夫の足元に落ちたボタンを拾い集めながら、指がブルブル震えました。私はこの家に存在していないみたいだ、透明人間にでもなったみたいだ、と思ったのです」

夫のいない時間も体の不調に苛まれて

 一生懸命に家事をしても、その結果を無にされる理不尽さに真由さんは疲れ果ててしまいました。夫がいない時でも食器のガシャ置きや舌打ちの音が聞こえるよう錯覚を起こすようになり、また服が捨ててあるのでは……とゴミ箱の中を見るのが怖くなりました。

 家事をしようとしても手足が鉛のように重く感じ、時間をかけて何とかこなすころには激しく息切れがしています。結婚から一年経つころには、心療内科を受診するまでに追いつめられてしまったのです。

妻が精神の健康を害しても心配せずにあざ笑うだけの夫

精神的DVよりモラハラが深刻な理由

 モラルハラスメントと精神的DVは似ていますが、被害側の心理には大きな違いがあります。DVの場合は暴言やありもしない嘘を投げつけられるため、自分が被害者だと自覚することができるのです。

 一方、モラハラの場合、加害側は凶器となるような言葉は口にせず、「お前のどこが悪いか自分で考えてみろ。わからないのか。だからお前はダメなんだ」などと、被害側が自分で自分を苦しめる環境を作って、そこに追いこんできます。

 真由さんも夫が不機嫌になる原因がわからず、何に気をつけたら夫の不機嫌地獄を回避できるのか、ただ悩むばかりでした。心療内科での診断は心身症で、真由さんの話を聞いた医師は夫との関係を変えることを勧めました。

モラハラ男の目的は上下関係の刷りこみ

 夫は真由さんが心療内科を受診したと聞くと、「働きもしないで家にいて、どこが悪いわけでもないのに俺の給料で病院か?」と冷笑しました。病院で心身症と診断されたことを話すと、

「贅沢な病名だな。そんな精神の弱いお前を毎日サポートしているのは誰かな? 俺だよな? 俺のほうがお前以上に精神的な疲労が大きいだろうと、お前は一度でも考えたことあるのかな?」

 モラハラ者はこのように、二人の間の上下関係を常にこちらの意識に刷りこもうとしてきます。結婚してからずっと、自分は支配される立場だと思い知らされ続けてきたことに真由さんはやっと気づいたのです。夫婦関係の改善のために旦那さんとも話をしたい、と医者から言われていましたが、真由さんはこの言葉を聞いて夫と病院に行くことをあきらめました。

 これ以上夫から追いつめられないためには離婚しかない―。しかし、そう決意した真由さんはさらに苛烈なモラハラを受けることになったのです。

 次回、「離婚を切り出された夫が妻に取った行動…真由さんのケース#3」に続きます。

【あわせて読みたい】
夢みたいな新婚生活に落ちた黒い影…志穂さんのケース#1
わずか7日で構築された支配のパターン 美沙さんのケース#1

神田つばき
記事一覧
作家・コラムニスト
離婚と子宮ガンをきっかけに“目がさめて”、女性に生まれたことの愉しみを探そうと緊縛写真のモデルとライターに。私小説「ゲスママ」、女性の悩みや疑問を解き明かすコラム「性に纏わるあれこれ」
イベント「東京女子エロ画祭」「親であること、毒になること」などの企画も。X

ラブ 新着一覧


初デートでキョドりたくない!話題が続かない人のモテ会話術
 初デートって緊張しますよね。年齢が上がるにつれて、失敗したくない思いから何を話していいのかわからなくて、口が重くなる時...
若林杏樹 2023-09-27 06:00 ラブ
籍入れたとたんに豹変…よく見極めたい「結婚後に変わる男」特徴7つ
 交際中は優しくて愛溢れる彼氏だったにも関わらず、結婚したとたんに態度が変わる男性がいます。結婚後「こんな人だと思わなか...
恋バナ調査隊 2023-09-27 06:00 ラブ
彼氏のドタキャンから始まるイイ女道 いらっとしたら飲み込むのが得策
 楽しみにしていたデートをドタキャンされたら、誰だって悲しいものです。でも文句を言ったら、それが別れの原因になってしまう...
恋バナ調査隊 2023-09-26 06:00 ラブ
39歳、赤ちゃんを見ると母乳が出るような気に…出産のリミットを考える
 最近、お母さんの腕に抱かれている小さな赤ちゃんを見るとなんだかおっぱいがうずきます。  見てるだけで母乳が出るん...
豆木メイ 2023-09-26 06:00 ラブ
外見が大事ですか? 見た目のことを言う男性の心理&3つの対処法
 どうせ恋愛をするなら、自分の中身をまるごと愛してほしいもの。でも、彼氏がやたらと見た目のことを言う男だと、がっかりしま...
恋バナ調査隊 2023-09-25 06:00 ラブ
「不倫の慰謝料」気になる使い道、サレ妻たちは何を思い、どう使った?
 夫に不倫された場合、相手の女性に慰謝料を請求できます。その相場は数十万円から数百万円ほど。時には1000万円以上になる...
恋バナ調査隊 2023-09-24 06:00 ラブ
当てはまりすぎて自分が怖い!? 恋愛ご無沙汰女性5つの特徴と脱出方法
 気が付いたら「数年、彼氏がいない……」なんて人はいませんか。あまりにもご無沙汰だと、恋愛の仕方すら忘れてしまいますよね...
恋バナ調査隊 2023-09-23 06:00 ラブ
「結婚6年でメシマズは致命傷」妻に抱かない宣言を突き付けた夫の決断
「冷酷と激情のあいだvol.161〜女性編〜」では、結婚6年目にして完全にセックスレスになり、夫婦で話し合うたびに状況が...
並木まき 2023-09-23 06:00 ラブ
夫の「2度と抱かない」宣言にタガが外れた43歳レス妻、潮目が変わった
 男女の関係では、交際相手や配偶者の態度に悩む人も少なくありません。愛し合っている男女間でも、価値観や物事の判断には個人...
並木まき 2023-09-23 06:00 ラブ
やっておけばよかった…既婚女性が悔やむ「恋愛ときめき」7大イベント
 イベントは恋愛に欠かせないときめきエッセンス。結婚して落ち着いた今、「もっと、こんなことしておけばよかった」なんて後悔...
恋バナ調査隊 2023-09-22 06:00 ラブ
平静を装い1年…“不倫クソ夫”は絶対に許さない!妻たちの仕返しエピ3選
 夫に不倫された妻の苦しみは、計り知れません。家族や子供のために「許そう」と一人葛藤しながら、一生懸命生活しています。で...
恋バナ調査隊 2023-09-22 06:00 ラブ
「20代vs30代」女性の婚活バトルで判明!? 年齢は若いほど有利は幻想だ
 20代女性と30代女性、婚活中の男性はどちらを選ぶのか、がコンセプトのABEMA新恋リア番組『GIRL or LADY...
内藤みか 2023-09-21 06:00 ラブ
大好きな人とのキスでドン引き→集中できず“ご辞退申し上げた”思い出3選
 あなたは男性からのキスにドン引きした経験がありますか? 世の中には意中の彼からのキスでドン引きし、相手への気持ちが激萎...
恋バナ調査隊 2023-09-21 06:00 ラブ
親との関係が影響している可能性も…モラハラ夫を作り出す義母の特徴3つ
 妻に対して攻撃的な言動を繰り返す「モラハラ夫」に怯える女性は少なくありません。家にいても安心してくつろげず、いつも夫の...
恋バナ調査隊 2023-09-21 06:00 ラブ
他人事だとシャッターおろす前に確認を…泥沼不倫に陥る男の特徴と末路
 不倫は他人事と思っているかもしれませんが、あなたの夫が泥沼に陥ってしまう可能性もあります。夫婦関係がうまくいっていると...
恋バナ調査隊 2023-09-20 06:00 ラブ
モテる男攻略のめちゃ大事な第一歩は? 見た目もキャリアも平凡でOK!
 SNSを見ているとイケメンには、スタイル抜群の可愛い彼女がいます。  フォロワーが多かったり、特別なお仕事をして...
若林杏樹 2023-09-20 06:00 ラブ