“笑わないアイドル”に縛られる必要はない
欅坂46のパブリックイメージにはあまりなかったこうした楽曲は、センターを務めるメンバーの心を蝕むようなものとは対極にあり、MVでは参加する全メンバーの笑顔やいきいきとした表情が多く見られる。櫻坂46のファンもその様子を見て嬉しく感じているようだ(筆者もその一人)。
“笑わないアイドル”などというレッテルにもう縛られる必要はない。櫻坂46はグループカラーの“何色にも染まっていない(逆をいえば何色にも染まれる)白”を体現するような振り幅の広い1stシングルで新しい坂を上り始めた。
一方で、楽曲の主人公の孤独や葛藤をえぐり出し、心の叫びに昇華させ、同じような気持ちを抱える人々に寄り添おうとした欅坂46。そのやり方は多くの人々の共感を呼んだ一方で平手という犠牲者を出した。それでも脱退後、女優業などに打ち込みながらつかの間の休息を経て、欅坂46の延長線上にあるような世界観を楽曲の主人公そのものであった平手が請け負ったようにも思える。『何度だって踊るよ 倒れても構わない』と、平手はもう一度立ち上がった。
「別に背負ってた荷物は下りやしなかった」
ここまでの「ダンスの理由」歌詞引用部についてはあくまで筆者の解釈だ。また歌詞全体を俯瞰で見れば、孤独に苦しむ多くの人々に寄り添うものになっている。ただ、自身が抜けたグループについて平手が強く思いを寄せていることは間違いない。
平手は今年8月に発売された「ROCKIN'ON JAPAN」(2020年10月号)で、「『欅やめて、背負ってた荷物は下ろせましたか?』とか、『ひとりになってから、だいぶラクなんじゃない?』って言われるんですけど」「別に背負ってた荷物は下りやしなかった。で、今もしてない」と語っていた。当時、欅坂46は改名が決まりラストライブを控えていた頃。自分が抜けた後のグループについても、まだ強く責任を感じたままのようだった。
2期生の涙が平手の心を揺れ動かした
何より、欅坂46脱退を決めていた昨年末のNHK紅白歌合戦後、平手が最も心残りで後ろ髪を引かれていたのは、まだ活動歴の浅い18年加入の2期生の存在だった。
欅坂46のドキュメンタリー映画でも明かされているが、同期の1期生たちは随分前に本人から話もあったため、ある程度心構えができていたようだ。
だが何も知らされていなかった2期生にとってはあまりに突然の別れで、平手と親友のように近しくなっていた田村保乃(22)の驚きと号泣や、彼女を抱きしめて慰める平手の姿がカメラに捉えられていた。そんな2期生の涙ながらの引き留めが、グループ脱退発表まで平手の心を揺れ動かした。実際に脱退してからも、前述の「ROCKIN'ON JAPAN」にあるように彼女たちのことをずっと気にかけていたことだろう。
欅坂46から改名後、中心にその2期生が据えられることとなった櫻坂46を平手が応援していないはずがない。歩む道は違えど櫻坂46の成功を切に願いエールを送っているだろう。
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