再活動に誘われたけど…
――適応力があるということですね。
「そうかもしれません(笑)。何よりも収入が良かったんです。20時から午前1時までの5時間の勤務で日給3万円。ヘアセット代やレンタルドレス代を引かれても、ありがたい金額でした。育児があるので週3勤務にしても8万円は稼げますし、時々チップをくれるお客さんもいて、私も母も大助かり。
その上、ホステス仲間には、私と同じようにバツイチ子持ちの女性がいたので、母親としての情報交換もできる。お酒もタダで飲めるし、食事もお客様にご馳走してもらえる。夜の仕事はありがたかったですね」
――アイドルに戻ろうとは思わなかったんですか?
「実は少しだけ思いました。ただ、その時期にはメインのメンバーの卒業が相次ぎ、グループは解散していたんです。仲の良かった数人のメンバーが『地下アイドルとして再活動しない?』と声をかけてくれたんですが、実はその時、クラブの黒服の男性と付き合っていたんです」
「担当」の黒服と極秘交際
――えっ! そうなんですか?
「はい……。クラブのホステスたちには黒服の『担当』がつくんです。仕事や人間関係での悩み事を聞いてくれる担当者なんですが、2つ年上のNさん(26歳/独身)が私の担当でした。
すらっと背が高く、顔立ちは野性味のある濃い顔でしょうか。同じ六本木のサパークラブでホストをしたのち、うちの店の黒服となった人です。
彼はアイドル時代の私を知っていて、コンサートにも通ってくれたみたいです。『推し』は3人いて、その中に私も入っていたと聞かされました。実はファンだったんですね(笑)。
でも、クラブでの指導は厳しかったかな。彼自身がホスト経験者だから、私が気を抜いた接客をしていると、『R美ちゃん、あんなだらけた接客ではお客様に失礼だよ。もっとプロ意識をもって』などと注意をされる。半面、お客様から指名が入ったら、『R美ちゃん、その調子』と褒めてくれる。
いかにお客様にリピートしてもらえるか、どのように売り上げを伸ばすかも親身になって考えてくれましたね。アメとムチ……ではありませんが、彼の笑顔を見たいがために頑張っている自分がいました。
気づけば彼に惹かれていて……。ホステスと黒服の恋愛は禁止ですが、この気持ちは止められませんでした。
「プロ失格」の言葉に涙
付き合うきっかけとなった夜のことは今も覚えています。あの日の閉店後、私は更衣室で一人、泣いていました。
高級料亭での同伴でお酒を飲みすぎて……。20時出勤のはずが、1時間も遅刻しちゃったんです。当然、他のホステスやママに大迷惑をかけてしまって……。
先輩ホステスの『プロ失格よ!』の怒声が酒の残った頭の中をぐるぐる回り、育児疲れもあって泣いてしまったんです。
――R美ちゃん、大丈夫?
更衣室のドア越しに、Nさんの声が聞こえてきました。
――大丈夫です。今日は本当にすみませんでした。
私はティッシュでこぼれる涙を拭いながら言いました。
穏やかな声にたまらず
――着替えが済んだら少し話さない? 悩みでも、文句でも、言いたいことは何でも言っていいから、話を聞くよ。スタッフもホステスも帰ったから大丈夫。
とても穏やかな声でした。そのころにはすっかり『夜の世界』に染まっていましたが、指名や同伴のノルマをこなし、日々の営業メールや接客の慌ただしさに体も心も疲弊(ひへい)していました。加えて、帰宅をすれば育児や家事が待っています。
息子にイライラは見せられないし、お客様の前でも笑顔で接客しなくちゃいけない。本当の私を晒せるのはどこなの……? と思っていたところに、Nさんからかけられた言葉でした。
――ごめんなさい。少しだけ、甘えさせて……。
私はドアを開けるなり、Nさんの胸に抱きついたんです。
続きは次回。
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