仕事や恋に謳歌する私と、髪を振り乱して子育てする彼女。本当に「幸せ」なのはどっち?

ミドリマチ 作家・ライター
更新日:2025-07-12 11:45
投稿日:2025-07-12 11:45

【大磯の女・水野実久28歳 #2】

 実久は妻子ある男性と交際をしているが、その日は彼に「仕事が入った、先に行っていて」と言われてしまう。大磯のプールリゾートに先乗りしてひとりでバカンスを楽しんでいた実久。しかし、隣のパラソルに雰囲気ぶち壊しの子連れがやってきて……。【前回はこちら

 ◇  ◇  ◇

 15時過ぎ。

 彼から「新幹線に乗った、18時には行けそう」というDMが来た。プールは明日、一緒に入ろう、とのことだった。

 だけど、彼のことだから今夜たらふくお酒を飲んで、それどころじゃなくなるんじゃなかろうか。明日は宿泊者専用のVIPエリアを利用できるらしいから、きっとそこで一日中寝ているんだろう。

 呆れながらも、私は彼の寝顔を思い出して思わず口元がゆるんだ。そんな誰にも見せられないにやけ顔で、スマホを伏せたその時だった。

「やっと静かになってくれましたよ。うるさくてごめんなさいね」

「結婚なんかするもんじゃないですよ」

 また横の女に話しかけられた。上の子ふたりは、子供用プールに行ったらしい。乳児はもうひとつのベッドでスヤスヤ寝息を立てている。

「い…いえ、気になりませんでしたよ。それにしても大変ですね。旦那様は?」

「平日ですからね。夫は仕事人間なんで。慣れたものです」

 遠い目で、誇らしげに言う彼女。曰く、その分稼いでくれるし、度重なる出張時も必ずプレゼントを買ってきてくれるから十分満足しているのだと、聞いてもないのに話してくれる。

「大変ですね」

「そうなんです! 私もパートしているから休みは無いに等しいのに、半年の赤子を置いて、飲み会とかにも行っちゃうんですよ。本当に毎日ムカついて…結婚なんかするもんじゃないですよ」

「へぇ…、勉強になります」

彼の奥さんもこんな感じなんだろう

 嬉々として話しはじめた彼女。

 当初は特に何も思わなかったが、勝手に私を独り身と決めつけていることが少々引っかかった。女のエンジンはさらにかかる。気がつけば、話の切り上げどころがわからなくなっていた。

 この前見たネットの記事で、主婦は孤独で喋りたがりだと言っていた。おそらく彼女も例にもれず孤独なのだろう。なんて哀れな毎日なのか。にっこり微笑み、意地で独身の余裕を見せつける。

 ――彼の奥さんも、きっとこんな感じなんだろうな。

ミドリマチ
記事一覧
作家・ライター
静岡県生まれ。大手損害保険会社勤務を経て作家業に転身。女子SPA!、文春オンライン、東京カレンダーwebなどに小説や記事を寄稿する。
好きな作家は林真理子、西村賢太、花村萬月など。休日は中央線沿線を徘徊している。

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


5歳過ぎてもオムツがとれない…意外な“おねしょの原因”とは
「もう5歳なのにまだオムツが外せなくて」「小学校にあがってもおねしょしてしまうんです…」 思わず、えっ!! と驚かれるよ...
親の介護は家族総動員 あるある問題とその後にすべき行動3つ
 親の介護と聞けば、多くの人が不安を抱くはずです。「自分を育ててくれた親だけど……」と思う反面、親の介護をすることで自分...
我慢強いA型長女は返上! がんがくれた「キャンサーギフト」
 私は42歳で子宮頸部腺がんステージ1Bを宣告された未婚女性、がんサバイバー1年生です。がん告知はひとりで受けました。誰...
父譲りの哲学“にゃんたま”を持つ「オペラ座」のクールな視線
 きょうはレアなツートンにゃんたまω。かっこいい見返り美男でドキッ!  タオマークの様にも見え、哲学さえ感じさせる...
ハート型で可愛い…アンスリウムは恋愛を具現化したような花
 だいぶ以前になりますが……ウチのお花屋さんに居た若い女性スタッフM子のお話でございます。  これがまた大変にブッ...
都会にいて幸せになれるの? 「田舎の女」が幸せな理由4選
 格差社会といわれる日本ですが、年収や学歴のみならず、都会と田舎の格差も広がっています。都会を生きる女と田舎を生きる女は...
「そっちに行っちゃダメ!」をなくす廊下のない保育園の魅力
 保育園の現場では、「廊下に出ちゃダメよ!」とスタッフが子どもに声をかけているところをよく見ます。しかし、すんなり戻って...
急ぎ足の隙間から…チラリズム“にゃんたま”は魅力たっぷり
 「にゃんたま」に、ひたすらロックオン! 猫フェチカメラマンの芳澤です。  正々堂々、見せつけてくれるにゃんたまω...
おひとりさま老後には備えが大切 今から意識すべき2つのこと
 近ごろのニュースを見ていると、年金の支給も思わしくないようです。超高齢化社会に向かっているというのに、日本の未来が不安...
あれもこれも試した! がん治療に役立つ「情報収集」虎の巻
 私は42歳で子宮頸部腺がんステージ1Bを宣告された未婚女性、がんサバイバー1年生です。がん告知はひとりで受けました。誰...
汚れた毛並みは男の勲章 超貴重なワイルド三毛“にゃんたま”
 よ~く見てください。  恋のバトル真っ最中。にゃんたま君が最も忙しい季節に、少しカラダが汚れた三毛猫(柄が薄いタ...
部屋干しでもすぐ乾く!生乾きの臭いをさせない洗濯方法
 雨の多い梅雨時期には洗濯物が溜まりがち。重い腰を上げて部屋干しをしたのに、洗濯物から生乾きの臭いがしてうんざりしてしま...
花の蕾が秘めるエネルギー 恋愛運UPには暖色系を北に飾って
 これから日本も夏本番。  ここ数年、夏が来るたび思うのですが、ワタクシが中学生の頃になんだか必死に覚えた「ケッペ...
彼の家で“私の存在”を知らしめる神グッズは「洗剤」だった
 大好きな彼の自宅に、私物を置いて、他の女性へ“けん制”をしたいですか? モテる彼と付き合っている女性ほど、そんな心理に...
心が通じたかな? 肉球も一緒に披露してくれた“にゃんたま”
 にゃんたまωを見せてください!  いいよ~! オッケーにゃ~ん!  …と、なかなかすぐにいきませんが、どん...
京都のホストクラブにジャニ系よりエグザイル系が多い不思議
 ホストクラブといえば、髪を綺麗にセットした綺麗なお兄さんが女の人とお酒を飲んでくれる場所。最近はいろいろなタイプのホス...