「世帯年収1500万じゃ恥ずかしい」御茶ノ水からの“都落ち”…武蔵小杉のタワマンを選んだ女のプライド

ミドリマチ 作家・ライター
更新日:2025-09-13 11:45
投稿日:2025-09-13 11:45

高みにいられそうな「都落ち」を決断

 綾乃は、耐えきれずすぐに『都落ち』を決断した。大手企業に勤めるサラリーマンの夫・孝憲を言いくるめ、家を売りに出した。立地の良さやご時世もあり、すぐに買い手がついたはよかったが…。

 ――本当は豊洲が良かったなぁ。

 ただ、税金や諸費用を考えても、武蔵小杉のこの部屋であれば住み替えによって億を超える利益が得られることが大きかった。

 そうすれば、娘を私立小学校に入れられる余裕ができる。しかも、神奈川は都内よりお受験に対する意識が低い。通学圏にある名門学校でも倍率が比較的低いことも魅力だった。

 なにより、綾乃自身が高みにいられそうな場所であるのだ。

やっと見つけた自分の居場所だが…

 引越しが決まり、ひとまず安心したのか、第2子を妊娠した。香那も駆け込みで大手のお受験塾に入れさせることができ、めでたく鎌倉にある私立小学校に合格した。

 仕事も辞め、無事に男の子も産まれ、今は子育てに専念する悠々自適な日々である。

 その日も綾乃は、下の子の赤ちゃん教室で出会った5人ほどのママ友を、マンション内のキッズラウンジに招待して交流を楽しんでいた。

「みなさん、これどうぞ。いただきもののクッキー」

 綾乃はわざわざ予約して買いに行った赤坂の有名店・テーベッカライのクッキーを、涼しい顔で彼女たちに差し出した。

「これ、すごく有名なクッキーじゃないですか」

「奏太くんママって、もしかしてセレブ? お姉ちゃんも私立なんですよね」

 尊敬のまなざしを向けるママ友に向けて、綾乃は口元に手を添え、隙間から白い歯を見せた。

「そんなことないって。普通のサラリーマン家庭だって」

 謙遜ではなく、正直に告白する。このエリアの人たちは、タワマンに住んでいれど、庶民的な感覚を持つ人がかなり多く、その点は綾乃にとって居心地がよかった。

 中の上。ボリュームゾーンよりも、少し上でいたい自分にとって、ちょうどいい――資産がある分、その中でも優越感を持って過ごすことができている。

ミドリマチ
記事一覧
作家・ライター
静岡県生まれ。大手損害保険会社勤務を経て作家業に転身。女子SPA!、文春オンライン、東京カレンダーwebなどに小説や記事を寄稿する。
好きな作家は林真理子、西村賢太、花村萬月など。休日は中央線沿線を徘徊している。

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


モチベーションを上げる6つの方法♪ キープで効率アップ!
 仕事や家事を楽しく効率的に進めるためには、モチベーションを上げる必要があります。しかし、「やらなくちゃ」と思っているの...
時間にルーズだと命とりになるかも…?5つの特徴&克服方法
 仕事もプライベートも全て、「時間」によって進められます。仕事であればスケジュールや納期が決まっていますし、友達や彼氏と...
怪しい穴…“にゃんたま”君の尻尾がピン「なんだか匂うにゃ」
 こんなところに怪しい穴があるぞ。クンクン……なんだか匂うなあ。  気を付けてにゃんたま君! マルコヴィッチの穴か...
口癖は「私が悪かった」 そんな人に欠けているものって…?
 何か問題が起きたとき、すぐに周りの人や環境のせいにするのは良いことではありません。でも、「私が悪かった」という言葉を口...
ほっこり冬の幸せ!天使の口づけ「パンジー&ビオラ」の育て方
 暦は立冬を迎えました。ぼちぼち寒くなり、あたりが秋から冬の気配へと変わり始めると、お花好きの皆さま「今年もそろそろよね...
イライラしたらどうすればよい?対処法&避けるべきNG行動
 人間関係や職場環境、家庭内問題など、日常生活の中でイライラしてしまう原因は人それぞれ。上手に感情をコントロールすること...
なかなか出会えない? 縞三毛猫“にゃんたま”のモフモフお腹
 きょうは、モフモフお腹に顔をうずめたくなるにゃんたま君にロックオン。  気のせいか、カツラを被っているような柄の...
投げ銭はしないけど…ある意味で“無償の愛”がすごすぎるひと
 ライブ配信は、まさに魑魅魍魎(ちみもうりょう)がうごめく世界。今日も今日とて、多くのライバーやリスナーは、配信をめぐっ...
やんちゃ盛りが戦いごっこ “にゃんたま”も揺れる躍動感!
 きょうは、飛び跳ねるにゃんたまω!  ふたりはケンカしているの? 心配ご無用、「戦いごっこ」をして遊んでいるんで...
気が利いてる! 今秋、男性が絶対に喜ぶ意外なプレゼント3選
 男性へのちょっとしたプレゼントには、気の利いたものを贈りたいのが女性の心理。恋人など親しい間柄の相手にだけでなく、仕事...
最高のバイプレーヤー! マルチな才能を発揮するテマリソウ
 そもそも、なぜこんなモノを食べようと思ったのか……と、見た目が驚く食材が世の中多すぎるのでございます。  たと...
仕事に悩む人の共通点…誰かに頼るのは悪いことじゃない!
「仕事が早く片付かなかったり効率が悪いのは、私が無能だからだ……」。そんなふうに一人で悩んでしまうことはありませんか? ...
島暮らしの猫は忙しい…「用もないのに呼び止めるにゃ!」
 きょうは、アメリカCNN「世界6大猫スポット」に選ばれたことのある、福岡県の猫の島。たくさんの猫が暮らしている「相島」...
妊活と婚活に見つけた共通点…34歳で卵子凍結を決めた理由
 みなさん、こんにちは。結婚につながる恋のコンサルタント山本早織です。婚活や恋愛のコンサルをしている私自身が、結婚後に女...
弁護士もお手上げ!嘘に酔う虚言癖男…加奈子さんのケース#3
 内縁の妻がいるから結婚できないと言ったことも、自動車ディーラーという職業も、養護施設に妻の連れ子がいることも、何もかも...
ノルマ達成に焦って…恐喝まがいに“投げ銭乞い”をするひと
 ライブ配信は、まさに魑魅魍魎(ちみもうりょう)がうごめく世界。今日も今日とて、多くのライバーやリスナーは、配信をめぐっ...