「スケジュール管理ができない人」は一体何だというのか。運だけで生きてきた私に浮上した、ある疑惑

新井見枝香 元書店員・エッセイスト・踊り子
更新日:2025-11-30 11:45
投稿日:2025-11-30 11:45
 踊り子として全国各地の舞台に立つ新井見枝香さんの“こじらせ”エッセーです。いつでも、いついつまでも何かしら悩みは尽きないし、しんどいことだらけの日常ですが、生きていく強さを身に付けるヒントを共有できたらいいなという願いを込めまして――。

一年に一度、手帳の買い替え時期がやってきた

 ストリッパーとして温泉地を渡り歩き、永遠に続くと思われた夏が終わりを迎えた頃、久々にアルバイト先の書店に立った。エプロン姿の店主は本屋のオヤジらしい灰色のカーディガンを羽織り、店先のワゴンは来年の手帳で埋め尽くされている。

 町の洋品店みたいなハンガーラックには、猫や花のカレンダーもぶら下がっていた。ここは都庁のある新宿区、とはいえスタバもマックもない私鉄駅前の商店街には、書店が一軒だけ。レジに入れば「去年ここで買ったんだけど…」という手帳やカレンダーの問い合わせを受けた。

 この辺りを生活圏にする人たちは、店の前を通りかかると、一年に一度の買い替え時期が来たことを知るのだろう。

【こちらもどうぞ】電マの営業からラブホの清掃員へ…羞恥心とも戦うストリッパーが思うこと

 しかし私の万年床ならぬ万年リュックの底には、薄汚い2022年の手帳が沈んだままだ。急に聞かれても答えられない本籍地や、仕事場で必要なパスワード諸々を書き込んでいるため、手放すことができないでいるが、スケジュール帳としては3年も前に役目を終えている。

 会社員の頃は日々の予定を書き込んでいたけれど、それで上手に管理できていたかというと、全くそんなことはなかったのだ。まず、書き込みを見ない。そしてそもそも、書き込むことを忘れる。人に予定を聞かれてスケジュール帳を開き、自信満々にその日は何もないと答えたところ、実は2つも3つも予定が重なっていたということが珍しくなかった。

 そういう自分に何度となく落胆してきたくせに、本当にこの日は予定を入れても大丈夫だろうか?と慎重にならないのが私という人間の摩訶不思議である。

書き込む→確認する、という基本的能力が欠けている

 2023年に向けてスケジュール帳を新調しなかったのは、時代の流れだ。スマホのメモ機能に箇条書きで予定を書き連ねるという極めて原始的な方法は、進化なのか退化なのか微妙なところだが、一応デジタル化である。Googleカレンダーに入れてリマインドをしてもらわなくても、スマホを見ずに1日を終えることはないから、手帳そのものの存在を忘れるという問題は改善されるはずだった。

 ところが私は、相変わらずスケジュール管理をミスった。スケジュールを書き込む、そして確認するという基本的能力が著しく欠けている。そして、そもそも自分には明日より先の未来を想像して生きることが難しかった。どれだけ楽しみにしている予定でも、それが何月何日のことで、それは今から何日後のことで、という実感がどうしても湧かない。

 ハッと気づいた時には、コピーロボットがいないと成り立たないスケジュールが明日に迫っているのだった。

新井見枝香
記事一覧
元書店員・エッセイスト・踊り子
1980年、東京都生まれ。書店員として文芸書の魅力を伝えるイベントを積極的に行い、芥川賞・直木賞と同日に発表される、一人選考の「新井賞」は読書家たちの注目の的に。著書に「本屋の新井」、「この世界は思ってたほどうまくいかないみたいだ」、「胃が合うふたり」(千早茜と共著)ほか。23年1月発売の新著「きれいな言葉より素直な叫び」は性の屈託が詰まった一冊。

XInstagram

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


ストレス発散や美肌にも…キックボクシングで女性の悩み解決
 働き方改革で残業が少なくなりアフター5(ファイブ)を楽しむ時間の余裕ができた今日この頃。早く帰っても何をしたらいいのか...
いよいよ子宮全摘へ 入院女子が涙した必須&便利グッズ17選
 私は42歳で子宮頸部腺がんステージ1Bを宣告された未婚女性、がんサバイバー2年生です(進級しました!)。がん告知はひと...
暑い日はずっとシエスタ…大事な“にゃんたま”を冷やす後ろ姿
 暑い日をどう過ごすか。  きょうは「夏だって毛皮を纏ってるぜ!」のにゃんたま君の知恵を拝見しましょう。  ...
ピルでツルツル肌に? 知っておきたい8つのメリットと危険性
 ピル連載も4回目。第1回目の「日本はピル後進国!『ピル=避妊』の考え方は遅れています」でも少し触れましたが、今回は、ピ...
勤務時間が長い! “自分しかできない仕事”をゼロにする方法
 定時上がりは憧れるけど、いつも勤務時間内に処理しきれず残業――。当然、プライベートの時間はカット。1日1時間の残業で、...
不妊症大国ニッポン…卵子凍結で産みたい人が産める社会へ
 子供を産みたい人がちゃんと産めるような社会にしたい。不妊治療で悲しむ人をゼロにしたい。これが私の願いであり、目標です。...
ワンオペ育児の日本と違う…台湾の妻が悩む“親戚の過干渉”
 国や地域によって、育児にまつわる文化の違いは様々ですよね。日本では日々忙しく過ごしているワンオペ育児ママが沢山いらっし...
「サボテン」には感情が? あなたの優しい言葉がトゲを抜く
「スマホをやりながら寝るのって絶対に睡眠妨害されてますよ。」  最近ワタクシの体メンテナンスをしてくださる方から言...
高級タワーマンションのラウンジで自撮りをする女の一生
 最近、たまたま都内の最高ランクのタワーマンションに行く機会が数回あったのですが、そこで2人組の美しい女性がラウンジのソ...
去勢手術は3日後…にゃんたま記念撮影でモフモフとお別れ
 これぞ! 鈴カステラ! 出来立てホヤホヤの美味しそうなにゃんたま!  食べちゃいたくなる、愛おしいにゃんたまω!...
猛暑の夏…健康な高齢者でも熱中症予防を“家族ですべき”理由
 介護士をしていた経験をもとにライターをしています。筆者はこれまで、認知症の症状や認知症を発症した時の具体的なケアについ...
がんでごめんね…「人生最後の生理」はある日突然やってきた
 私は42歳で子宮頸部腺がんステージ1Bを宣告された未婚女性、がんサバイバー2年生です(進級しました!)。がん告知はひと...
さくらももこさんのエッセイに学んだ 本当の「時は金なり」
「時は金なり」という言葉、年を取れば取るほど心に沁みるのはなぜでしょう。私がこの意味を意識したのは、さくらももこさんのエ...
産毛のような初々しさ…もうすぐ去勢する“にゃんたま”の刹那
 羊毛フェルトで作られた「にゃんたまストラップ」が巷で流行中。フニフニ揉むと、心癒され気持ちが落ち着くのだそう。 ...
結婚したら退職する? 自分が幸せになるための人生の歩み方
 少し前のOLだったら「寿退職」なんて当たり前だったのでしょうが、今はそうはいかないですよね。共働きが普通だし、お金の心...
大人になっても趣味に没頭したい! おすすめできる3つの趣味
 ストレス社会で闘う毎日にふと疲れた時、「何もかも忘れたい」と思うことはありませんか? 多くの人は飲み会や買い物で鬱憤を...