脱いだ作家を守るために…作品を山に埋めた編集者の話 #2

うかみ綾乃 小説家
更新日:2020-12-30 09:17
投稿日:2020-12-28 06:00

 自分の作品がヘアヌードブームに引っかかることも、世間はこんなにエロが好きで、女性のヌード=男性の下半身への奉仕物、と見なしているということも、ささやかに好きな歌を歌っていた私には余所の世界のことでした。

 でも、私の作品はヌード写真を主にぽつぽつとメディアに取り上げられるようになり、そうなると事務所もレコード会社も、話題になる流れに乗りました。

「これからは、男が勃つような歌だけをつくるように」「テレビ出演やインタビュー時は、普段着もエロい格好をして、セックス好きの女として振る舞うように」「エロいPVをつくりましょう」

 決して悪い人たちではなく、仕事をするなら当然の考え方です。また、彼らにとって「脱ぐこと=エロが好きな女orエロを利用して売れたい女」なので、双方にとって良いやり方であるこの方向に、私が逆う理由がわかりません。

 仕事をするたびに軋轢が生まれるようになりました。

 気づけば私の作品は私も出版社も手の及ばないところで、既存のエロ商売ベースに乗せられ、数点のヌード写真がエロコンテンツとして消費されるようになっていました。

 つくづく人間は多面的な生き物です。

 インディーズミュージシャンが見る世界と、脱いだ女が見る世界は、同じ場所、同じ人間が相手でも、まったく違っていました。

「私は卑屈で傲慢だった」との坂口安吾の言葉を噛み締めるばかりですが、この流れになった以上、泳ぎきるしかありません。

 私はエロの表現は好きですが、価値観も性癖も違う他人の消費物になるのは職能が違います。

 でも、契約や仕事上の責任はあるし、なにより仕事は続けたかったので、この流れになった以上、6年間は辞めずに頑張ろうと決めました。

 正直、腹が立ったり惨めな気持ちになることもありましたが、良かったことは、エロを消費する側ではない、エロの世界で生きている表現者たちと出会えたことです。緊縛師、写真家、AV監督、女優、男優、執筆家etc。

 成り行きとは人生の最大の理由であるもので、私は自分の作品に、エロをどんどん取り入れていきました。

 仕事の方針は、ヌードの仕事は大きな話でも断り、脱ぐのは自分の作品でのみ。その作品もライブも、お客さんは人数限定の完全予約制。

 表現者が受け手を選ぶやり方があってもいいと思います。私は半端に興味を持つ人たちが私を忘れ、枷が取れるのを待ちながら、世界を狭くディープにしていきました。

 そんな私を、K社長が本当のところ、どう思っていたのか。

 連絡を取り合うことがあれば、社長は、次の作品をつくりましょう、と言ってくれました。

 私のほうは、彼の仕事に汚点をつけたような罪悪感を持っており、6年後に、どんな自分を築けているかを見定めてから、次の作品の話をさせていただこうと思っていました。

 ですが、3年も経たずに、まさかの知らせが届きました。K社長の会社が倒産し、その上、社長が行方不明だというのです。K社長が投資していた外国の友人が失脚し、社長はブラックな組織を含む債権者に追われる身となっていたのでした。 

 この投資も、周囲の人たちには、気持ちはわかるが関わらないほうが安全だ、と反対する人が多くいました。日本とは事情の違う国の話です。

 ですが社長は自分の信念でその友人の活動を応援しており、このような結果になっても、後悔は微塵もなかったと思います。そして、社長は命をも危ぶまれる危険な状況に陥っていました。

 次回に続きます。

うかみ綾乃
記事一覧
小説家
2011年「窓ごしの欲情」(宝島社文庫)で日本官能文庫大賞新人賞受賞。’12年「蝮の舌」(悦文庫)で第二回団鬼六賞大賞受賞。コラムニスト、映画の原作&脚本家としても活躍中。近著に「蜜味の指」(幻冬舎アウトロー文庫)。2020年から原作映画『モンブランの女』(『モンブランを買う男』AubeBooks)が全国で公開中。
ブログ http://ukamiayano.blog.fc2.com/

ライフスタイル 新着一覧


中国の幼稚園の給食事情は? 徹底した衛生面と栄養管理の今
 保育園コンサルタントの小阪有花です。今回、私はお仕事で、中国・天津にあるセンディ幼稚園を視察してきました。そこで気にな...
ママは産後7年を育児に捧げるべき?仕事や夢との向き合い方
 妊娠・出産を終えてほっとしたのも束の間、そこから始まる育児期間。ママは「我が子のためなら自分は二の次」になってしまいが...
母性本能が止まらない…将来有望な赤ちゃん“にゃんたま”
 わんぱくでもいい、立派なにゃんたまに育ってほしい!  大好評のリクエストにお応えして、こにゃんたまωにロックオン...
なぜ出張ホストをしているの? この仕事を選ぶ男性の心理
 最近、出張ホスト(レンタル彼氏)のニーズが高まっています。おひとりさま社会と言われ、恋人がいない独身女性が増えているの...
保育園で暴言を繰り返す 5歳の男の子にとるべき行動とは?
 こんにちは、チャイルドカウンセラーの小阪有花です。今回は、私が保育園に勤めていた時に出会った、“暴言”を繰り返す5歳の...
がん専門病院への転院 “ダム”決壊で真っ先に浮かんだ顔は…
 私は42歳で子宮頸部腺がんステージ1Bを宣告された未婚女性、がんサバイバー1年生です。がん告知はひとりで受けました。誰...
ここは僕の縄張りにゃん パトロール中“にゃんたま”をパチリ
 忙しいな忙しいな!日課のにゃんたまパトロール。  にゃんたまは、縄張りに自分の匂いを付けて回ります。  こ...
開運花師が解説します ピンクのバラを恋愛お助けアイテムに
 はじめまして。あなたを幸せに導く一番簡単で手軽な開運アイテム「花」を分かりやすく解説させていただきます、ワタクシ、開運...
焦らずに…赤ちゃんがハイハイで得られる3つの効果と注意点
「うちの子どもはハイハイばかりしていて。歩く気を起こさせるのにはどうしたら?」――。チャイルドカウンセラーとしても活動し...
この縄張りは渡さにゃい! 仁義なき“にゃんたま”抗争勃発中
 今回は、にゃんたま同士の決闘シーン。  きょうこそは、この縄張り問題に決着をつけにゃいと!  目を逸らさず...
別居、DV、酒浸り…IT起業家の暗黒面あるある“7つの習慣”
 起業家――。華々しい響きを放ち、西麻布、六本木、恵比寿、銀座など煌びやかな繁華街でシャンパンをたしなみ、有名女優との交...
真夜中に突然の大量出血で119番、緊急搬送され人生初のERへ
 私は42歳で子宮頸部腺がんステージ1Bを宣告された未婚女性、がんサバイバー1年生です。がん告知はひとりで受けました。誰...
ハッシュタグは“いいね”を超える? 承認欲求の先にあるもの
 SNSで昨年あたりから、ハッシュタグの新しい使いかたに脚光が集まりつつあります。ハッシュタグとは冒頭に「#」をつけた言...
こにゃんたま君のパパ「タンク君」のご立派“にゃんたま”
 きょうのにゃんたまは、先日ご紹介した「こにゃんたま君」(奥に写る子猫)のパパです!  その名も「タンク」君! ...
悲劇はもう二度と…園児の外遊びの大切さと保育士さんの努力
 保育園の子どもたちや働く保育士さんにとって、あまりに悲しい出来事が続いています。園児2人が亡くなった大津市の事故のショ...
ゴロンゴロン♪ “にゃんたま”流ストレス解消法でリラックス
 気が付くとストレスで、体が緊張状態になっていませんか?  きょうは、体の力を意識的に抜いてコロコロしてみる、にゃ...