人妻探偵ついにザーメン入手!依頼人が語った苦しい胸の内#5

蒼井凜花 官能作家・コラムニスト
更新日:2023-04-07 06:00
投稿日:2023-04-07 06:00

依頼者は小柄な女性だった

――えっ、依頼人が直接データを取りにきたんですか?

「はい、驚きました。これまで一度も依頼人との接触はありませんでしたから。で、すぐにシャワーを浴びて身づくろいをし、ホテルの外に出たんです。

 あたりを伺っていると、電柱に身をひそめるように小柄なロングヘアの女性がいました。

 見たところ20代後半くらいでしょうか、白のニットにロングスカート、カジュアルなスニーカーというファッションです。

――あの……探偵さんですよね?

 彼女は小声で聞いてきました。

――はい。

――Xさんの件を依頼をした者です。パソコンを持ってきていますから、データをいただけませんか? 

 彼女はバッグからノートPCを取り出しました。

 ――あ……では、あちらで。

壊し屋ではなかった?

 ビルの陰に行き、素早くSDカードとエアドロでデータを移す作業をしました。彼女はうつむいたまま、何も言いません。

(これが依頼人……? もしかしてXさんと不倫して、動画を撮らせて、離婚に持っていくとか……?)

 私の頭の中で『壊し屋』という言葉が色濃くなりました。沈黙のあと、彼女はうつむいたまま「……れたんです」と言いました。

――えっ?

 私が聞き返すと、今度ははっきりした声が返ってきました。

――フラれたんです……私、Xさんに……。

――フラれた……?

 壊し屋の依頼ではなかったの? と聞く間もなく、彼女はぽつりぽつりと話し始めたんです。

依頼者が語った動機とは

――私、Xさんと同じ会社に勤めているんです。中途採用で慣れない業務を任されて手こずっていた時、Xさんは優しく声をかけてくれたり、残業して手伝ってくれたり……。気づけば彼を好きになっていました。

 2カ月ほど前でしょうか、残業で2人きりになった時、思い切って告白したんです。

――告白……ですか?

――はい、奥さんがいてもお子さんがいても、Xさんが好きですって……。

 彼女の頬に涙がつたった。

――もしかして、不倫の関係にあったんですか?

 私が聞くと、彼女は首を振り、切なげに笑いました。

――逆です……。私は不倫でもいいから愛されたかった。彼に抱かれたらどれほど幸せだったか……。でも……『僕には妻と子供がいるから、君とは付き合えない』ってきっぱり言われて……。

 それ以来、会社では避けられるようになりました。目も合わせてもらえないほど嫌われてしまって……。だから、せめて彼のセックスの動画と精液を欲しいと探偵事務所に依頼したんです。


 もちろん、奥さんにバラして家族を壊そうなんて思いません。ただ、彼のセックスシーンを見たかった……。彼ってこんなふうに女の人を抱くんだ。こんな体をしているんだって知るだけでいいんです。

 そこまで言うと、『ありがとうございました』と彼女は足早に去っていったんです」

蒼井凜花
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官能作家・コラムニスト
CA、モデル、六本木のクラブママの経歴を持つ異色の官能作家。近著に「CA、モデル、六本木の高級クラブママを経た女流官能作家が教える、いつまでも魅力ある女性の秘密」(WAVE出版)、「女唇の伝言」(講談社文庫)。
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