更新日:2023-11-24 06:00
投稿日:2023-11-24 06:00

オフはクリニックとサロンに通い詰める

 ストリッパーのオフは、クリニック通いで始まる。予約した歯科で治療を再開、皮膚科でおしりの「おでき」に塗る軟膏をもらい、今は鎖骨を骨折しているので、整形外科でレントゲンも撮らなければならない。

 できればガン検診も受けたいし、ワクチンも接種したほうがいいだろう。

 オフの後半は、次の仕事に向けて、ヘアサロン、まつげサロン、ネイルサロンとサロン通いで終わる。それなのに私は、さらにクリニックをもうひとつ増やそうとしているのだ。

銀座の“独房”でされるがまま…

 銀座の和光と三越がある交差点からほど近いビルに、目当てのクリニックはあった。

 患者は名前ではなく靴箱の番号で呼ばれ、通路に独房のごとく並んだ小部屋へ通される。応対するスタッフは誰もが異様に感じ良く、顔が整い過ぎて、現実味がない。

 もうすぐ俺、死ぬのかな。

 白衣姿の女性らに連行された白い小部屋で、目隠しをされてベッドに横たわる。まるで私は、執行目前の死刑囚。そういえばさっき、同意書にサインをした気がする。

 あっ、通電。頬が焼けるように熱い。肉が焦げるような、禍々しい臭いに、気が遠くなる……。

日焼け止めってなんですか?

「おつかれさまでした」

 見分けのつかない美人スタッフが、頬にやさしくテープを貼ってくれた。初めて訪れた美容クリニックで、顔のシミにレーザーを当てた私は、骨を折った時よりもぐったりとして、今日までの自分の愚かさを呪った。

 思えば紫外線を浴びまくる人生だった。小学校高学年からコギャルに憧れ、ベランダで日焼けをしたし、書店員時代はすっぴんのまま日焼け止めも塗らずに出勤した。

 踊り子になってからも、遠征先の海で毎日泳ぎまくった。その結果、左の頬に特大のシミが出現し、いかなるファンデーションをもってしても隠せないほどに、成長を遂げたのである。

私は腐ってもストリッパー

 私は腐ってもストリッパー。頬のデカいシミで、おとうさんたちの夢を壊してはならない。

 はたして私のシミは消えるのか。ちなみにかかった費用は、銀座の有名寿司店でコースを食べて、ちょっといい日本酒を飲んだくらいの価格である。

 1回で消える人もいれば、20回通っても効果がわからない人もいるらしい。その前に寿司を食べに行ってしまいそうな予感しかしないが、それはそもそも食べなくてもいい寿司である。

スーシーを取るか、レーザーを取るか

 こうなったらレーザーを当てた帰りに銀座で寿司をセットにしたいが、そのためには2倍働かなければならず、しかしオフが全くなければそもそもクリニックに行けない。

 美食と美容、どちらかひとつを選ばないとならないようだ。

新井見枝香
記事一覧
元書店員・エッセイスト・踊り子
1980年、東京都生まれ。書店員として文芸書の魅力を伝えるイベントを積極的に行い、芥川賞・直木賞と同日に発表される、一人選考の「新井賞」は読書家たちの注目の的に。著書に「本屋の新井」、「この世界は思ってたほどうまくいかないみたいだ」、「胃が合うふたり」(千早茜と共著)ほか。23年1月発売の新著「きれいな言葉より素直な叫び」は性の屈託が詰まった一冊。

XInstagram

ライフスタイル 新着一覧


今しかできない? 花の独身時代に済ませておきたい4つのこと
 結婚をしていないうちは「早く身を固めてしまいたい」「さっさと結婚して安定した暮らしがしたい」と思いつめてしまいがち。で...
楽しい老後を送りたい! 忙しい30代から準備できる4つのこと
 仕事にも慣れてきた30代。結婚して生活が変わったり、仕事と育児の両立であったりと、人によっては一番忙しい時期かもしれま...
もう2度と…子宮全摘&腸閉塞と全力で闘った30日間入院生活
 私は42歳で子宮頸部腺がんステージ1Bを宣告された未婚女性、がんサバイバー2年生です(進級しました!)。がん告知はひと...
草むらをくんくん…“にゃんたま”君の探し物は何ですか?
 無限に見ていたいパーツNo.1といえば、にゃんたま!  今回は探し物中のにゃんたまにロックオン。  たしか...
苦手な人との向き合い方! 職場の人間関係を円滑にするコツ
 仕事の内容には慣れてきたし、プライベートも楽しくできている。ただ、「職場に苦手な人がいるっ」――。そんな方も多いと思い...
自分で皮下注射も…採卵手術前日までにやるべき3つのこと
 日本は不妊治療の件数は世界一なのに、体外受精で赤ちゃんが産まれる確率は最下位。そんな状況を変えるために、ミレニアル世代...
キリスト教のお盆「ハロウィン」 その由来とカボチャの意味
 ワタクシ、全く上達しないドイツ語の個人レッスンを受けております。上達しない理由は一重にワタクシの不真面目さによるもので...
自然災害に巻き込まれた…子どもとどう向き合ったらいい?
 台風19号の爪あとが各地に深刻な被害をもたらしていますが、近年は相次ぐ自然災害で被災住民が避難生活を余儀なくされるケー...
月吹友香さん<後>41歳専業主婦が小説家を目指して見えたもの
 第18回(2019年度)「女による女のためのR-18文学賞」(※)の大賞受賞作「赤い星々は沈まない」は老女の性を大きな...
今日の議題はにゃに? 夕暮れの猫集会でポロリ“にゃんたま”
 猫の島、日暮れ近くに猫の集会にお邪魔しました。  おのおの一定の距離を保って、茶白、黒白、サビ、三毛、キジ、サバ...
“生活習慣病”も予防して! 介護は認知症だけじゃないんです
 日本は長寿大国です。誰しも安心して生涯を全うできるとしたら、高齢であることはとても素敵なこと。しかし、介護士でもある筆...
月吹友香さん<前> 私がR-18文学賞で高齢者の性を描いた真意
 読書の秋到来。直木賞や芥川賞、日本推理作家協会賞に本屋大賞……国内には数多の文学賞がある中で、「R-18文学賞」(※)...
犬でなく人間だったらと思うと…モラ気質なワンコの実態3選
 モラハラ気質は、人間だけに限ったお話ではないのかもしれません。「うちの犬が人間だったら、モラ男(モラ女)に違いない…」...
子宮全摘だけでもつらいのに…腸閉塞で長さ190㎝の管を挿入
 私は42歳で子宮頸部腺がんステージ1Bを宣告された未婚女性、がんサバイバー2年生です(進級しました!)。がん告知はひと...
お日様パワーでモテにゃんに…ぽかぽか日光浴“にゃんたま”
 きょうのにゃんたまωは、雨上がりの日光浴。  濡れた毛を乾かして、お日様パワーでぽかぽかリラックス♪  気...
魔法の鍋! 自動調理鍋の購入でキッチンはどう変わったか?
 最近話題の自動調理鍋。材料を入れてスイッチを押すだけで、料理ができてしまうという優れもののようです。少しでもラクをした...