「着飾るのは何もないから」偽セレブがマウントを取る理由。“本物の令嬢”の前で見つけた本当の自分

ミドリマチ 作家・ライター
更新日:2025-09-13 11:45
投稿日:2025-09-13 11:45

【武蔵小杉の女・鈴木綾乃 35歳】

 綾乃は千代田区の高級マンションから武蔵小杉に2年前に引っ越して来た。セレブ気取りの綾乃は同じマンション住人でさえない “たっくんママ”を避けていたが、実は彼女は……。【前回はこちら】【初回はこちら

【関連記事】千代田区民は“勝ち”だよね。通勤ラッシュを知らない自分は上流階級層の女【御茶ノ水の女・鈴木綾乃33歳】

 ◇  ◇  ◇

「本当に久しぶり! 20歳以来?」

 綾乃が予約し、セッティングしたマンションのゲストルームで、藤堂さんとたっくんママは、ふたりだけの世界に入り込み、思い出話にふけっていた。

 綾乃の住む部屋よりも広々としたリビング、解放的な見晴らし、高級家具で揃えられたインテリア――本当は、自分の部屋だと偽るはずだった。

 ふたりが学生時代の友人同士だったとは。

「そのくらいかな。ユリ、結婚式も来れなかったし」

「あの時はゴメンね。妊娠中で…」

 彼女たちが青春を過ごしていたのは、アメリカのニューヨークの郊外にある全寮制スクール。ふたりは高校時代そこに留学をしていたそうで、藤堂さんはユリ、たっくんママは本名の真琴からマコ、そう呼び合う仲だったようだ。

セレブママと地味ママの関係に動揺

 綾乃は、話弾むふたりの狭間で呆然と居場所を見失っていた。

「ごめんなさい、置いてけぼりにして。せっかく綾乃さんとも久々に会えたのに」

 藤堂さんが気遣い、話を振る。綾乃は、ハッと目を覚ました。

「いいんですよ。だって久々の再会なんでしょう」

 余裕のあるふりをして、逃げた。たっくんママこと真琴さんと目を合わすことがはばかられたから。

 どうやら真琴さんは、この地域の地主の娘で、このマンションが建てられた土地の一部を所有していたそう。公立出身であるというが、留学ができるのも、高層階に住んでいるのも当然だ。

 さらに旦那さんも地域で何代も続く開業医で、小学校からの幼馴染なのだという。さえない見た目ながらも、地に足着いた準富裕層であった。

「私と綾乃さんは、マンションのキッズルームで最近知り合ったばかりなの。うちのコ、“日本で”お受験を考えているから、娘さんを私立小学校に通わせているという彼女に思わず声をかけてねぇ」

 屈託のない笑顔で真琴さんは綾乃との関係を紹介した。すると、藤堂さんは目を丸くした。

些細なウソがバレた恥ずかしさ

「あら綾乃さん、あの時は、私立は行けないって話していたはずじゃ…」

「た、ただの、謙遜ですよ。落ちたら恥ずかしかったので、隠していたんです。御茶ノ水から引っ越したのも、通学の関係で……神奈川方面の方が自然もあるし、私立の選択肢も幅広いし…」

 まどろっこしい、飾り気の多い、言い訳だらけの現状。その不自然さに話している自分がいたたまれなかった。

 しどろもどろな姿を心配そうに見つめる4つの瞳に、綾乃は全てが露わになっていることを悟り、どこか穴があったら中に入りたい思いに駆られた。

ミドリマチ
記事一覧
作家・ライター
静岡県生まれ。大手損害保険会社勤務を経て作家業に転身。女子SPA!、文春オンライン、東京カレンダーwebなどに小説や記事を寄稿する。
好きな作家は林真理子、西村賢太、花村萬月など。休日は中央線沿線を徘徊している。

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


モチベーションを上げる6つの方法♪ キープで効率アップ!
 仕事や家事を楽しく効率的に進めるためには、モチベーションを上げる必要があります。しかし、「やらなくちゃ」と思っているの...
時間にルーズだと命とりになるかも…?5つの特徴&克服方法
 仕事もプライベートも全て、「時間」によって進められます。仕事であればスケジュールや納期が決まっていますし、友達や彼氏と...
怪しい穴…“にゃんたま”君の尻尾がピン「なんだか匂うにゃ」
 こんなところに怪しい穴があるぞ。クンクン……なんだか匂うなあ。  気を付けてにゃんたま君! マルコヴィッチの穴か...
口癖は「私が悪かった」 そんな人に欠けているものって…?
 何か問題が起きたとき、すぐに周りの人や環境のせいにするのは良いことではありません。でも、「私が悪かった」という言葉を口...
ほっこり冬の幸せ!天使の口づけ「パンジー&ビオラ」の育て方
 暦は立冬を迎えました。ぼちぼち寒くなり、あたりが秋から冬の気配へと変わり始めると、お花好きの皆さま「今年もそろそろよね...
イライラしたらどうすればよい?対処法&避けるべきNG行動
 人間関係や職場環境、家庭内問題など、日常生活の中でイライラしてしまう原因は人それぞれ。上手に感情をコントロールすること...
なかなか出会えない? 縞三毛猫“にゃんたま”のモフモフお腹
 きょうは、モフモフお腹に顔をうずめたくなるにゃんたま君にロックオン。  気のせいか、カツラを被っているような柄の...
投げ銭はしないけど…ある意味で“無償の愛”がすごすぎるひと
 ライブ配信は、まさに魑魅魍魎(ちみもうりょう)がうごめく世界。今日も今日とて、多くのライバーやリスナーは、配信をめぐっ...
やんちゃ盛りが戦いごっこ “にゃんたま”も揺れる躍動感!
 きょうは、飛び跳ねるにゃんたまω!  ふたりはケンカしているの? 心配ご無用、「戦いごっこ」をして遊んでいるんで...
気が利いてる! 今秋、男性が絶対に喜ぶ意外なプレゼント3選
 男性へのちょっとしたプレゼントには、気の利いたものを贈りたいのが女性の心理。恋人など親しい間柄の相手にだけでなく、仕事...
最高のバイプレーヤー! マルチな才能を発揮するテマリソウ
 そもそも、なぜこんなモノを食べようと思ったのか……と、見た目が驚く食材が世の中多すぎるのでございます。  たと...
仕事に悩む人の共通点…誰かに頼るのは悪いことじゃない!
「仕事が早く片付かなかったり効率が悪いのは、私が無能だからだ……」。そんなふうに一人で悩んでしまうことはありませんか? ...
島暮らしの猫は忙しい…「用もないのに呼び止めるにゃ!」
 きょうは、アメリカCNN「世界6大猫スポット」に選ばれたことのある、福岡県の猫の島。たくさんの猫が暮らしている「相島」...
妊活と婚活に見つけた共通点…34歳で卵子凍結を決めた理由
 みなさん、こんにちは。結婚につながる恋のコンサルタント山本早織です。婚活や恋愛のコンサルをしている私自身が、結婚後に女...
弁護士もお手上げ!嘘に酔う虚言癖男…加奈子さんのケース#3
 内縁の妻がいるから結婚できないと言ったことも、自動車ディーラーという職業も、養護施設に妻の連れ子がいることも、何もかも...
ノルマ達成に焦って…恐喝まがいに“投げ銭乞い”をするひと
 ライブ配信は、まさに魑魅魍魎(ちみもうりょう)がうごめく世界。今日も今日とて、多くのライバーやリスナーは、配信をめぐっ...