更新日:2025-12-22 08:00
投稿日:2025-12-22 08:00
最初で最後の経験
でも美帆は今でも言う。
「恋が動き出す瞬間って、あんなにも静かなんだって知った夜だった。手をつないだだけで、世界が一度きれいに見えたのは、あれが最初で最後かも」
大人になればなるほど、手をつなぐだけで心が震えるような瞬間は減っていく。だからこそ、あの夜の記憶は、美帆にとってひっそりと宝物のように輝いているらしい。
美帆は時々、あの夜を思い出したときの胸の高鳴りを「今の自分を作った、小さな奇跡みたいなもの」と話す。恋が叶うかどうかより、“心が触れた瞬間の温度”のほうが人の記憶に強く残るのだと、あらためて教えられる。
そして彼女は、もしあの夜がなかったら、「きっと私は、誰かを好きになる怖さに気づかず大人になっていた」とも言った。
友情が恋に変わる瞬間
──“手をつないだだけで人生が少し変わる”。
そんなロマンチックすぎる経験をしたのは、美帆の話だけではないのかもしれない。人は時々、ささやかな触れ合いに、永遠に残る感情を詰め込んでしまうものだから。
あの夜の出来事が特別なのは、恋だったからだけではない。
「友達」という安全な関係の境界線を、ほんの少し越えてしまったからこそ、ときめきと同時に、戻れなくなるかもしれないという背徳感が胸を締めつけたのだ。
大人になった今でも、ふとした瞬間に思い出してしまう恋があるのは、相手そのものよりも、“踏み出してしまった自分”の感情を覚えているからなのかもしれない。
友情が恋に変わる瞬間は、いつだって静かで、そして残酷なほど美しい。
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