“子供部屋”を出てチヤホヤされて 36歳女性が勘違いから気づいた現在地

ミドリマチ 作家・ライター
更新日:2024-02-10 06:00
投稿日:2024-02-10 06:00

【西荻窪の女・土井かおり36歳 #3】

 西荻窪の実家で母親と2人で暮らし、工場でパート勤務をしているかおり。平坦な毎日だったが何気なくインスタに投稿していたシフォンケーキの記録がにわかに注目を浴びる。インフルエンサーの仲間入りを果たし…。【前回はこちら、初回はこちら

  ◇  ◇  ◇

 自分が世間から求められるという喜び。味わったことのない使命感。

 小さい頃からスクールカーストも下位、アニメやマンガ文化にもどこかハマれず、友達は小学校から一緒の女の子だけだった。

 社会の歯車の中に埋もれていても、人に迷惑をかけずに生きられるなら、それで十分だと思っていた。…いや違う、思い込んでいたのだ。

――最近の私、生きているって感じがする!

 勝手に自身の中の相応を決めていた。可能性や欲望をそのレベルに合わせていただけの人生だった。

 その先の光に、手を伸ばそうなんて思ってもみなかった。そして、伸ばした先に、こんな喜びがあるなんて。

 そして、さらにかおりの心を躍らせる出来事が起こった。

「土井さん、雑誌でシフォンケーキ紹介の連載をする気はないですか?」

 以前、雑誌系のweb媒体でコメントを依頼してくれた編集者が、声をかけてくれたのだ。

私は特別な存在だったんだ

 トントン拍子に話は進み、雑誌の連載は始まった。またたくまにフォロワーも10万人に達した。

 ニッチながらも潜在的に好む人が多いスイーツだったからだろう。

 ついに、ファンからは『シフォン博士』という称号を与えられ、かおりはいつの間にか注目される存在になっていたのである。

 もちろん、工場パートは雑誌連載開始とともにやめた。

 金銭的に余裕が出てきたというのもあるが、誰でもできる作業で働いていることが空しくなってしまったのだ。

 かおりがSNSで紹介したお店は、どこも行列ができるようになる。社会の歯車にならなくとも、世界を動かせることを知ってしまったから。

――私は特別な存在だったんだな…。

 母と暮らす家の外にも、居場所はあった。自分が唯一無二の存在だという自己肯定感が、かおりの中にみなぎる。

 さらに好きなものをまっすぐ追求するため、より一層シフォンケーキの研究に費やすようになった。

 しかし、半年ほど経ったある日…。

ミドリマチ
記事一覧
作家・ライター
静岡県生まれ。大手損害保険会社勤務を経て作家業に転身。女子SPA!、文春オンライン、東京カレンダーwebなどに小説や記事を寄稿する。
好きな作家は林真理子、西村賢太、花村萬月など。休日は中央線沿線を徘徊している。

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


ご祝儀は新札しかNG? 土日の入手方法やアイロンでの作り方
 友人の結婚式が近づいて、美容院の予約やドレス、靴の手配まで完璧なのに「ご祝儀の新札がない!!」と焦った経験はありません...
来年は猫年じゃない? 干支に入れず恨み節の“にゃんたま君”
 昔、神様は元旦に動物たちにあいさつに来るよう言いました。12番まで先着順に、年の動物になれるという大イベントでした。 ...
本当に自分のために? 素直に聞くべきアドバイスの見極め方
 昔から「素直さは大切」だと言われます。大人になっても素直さを忘れずに、周囲のアドバイスを聞き入れられる人のことは尊敬し...
脱いだ作家を守るために…作品を山に埋めた編集者の話 #3
 投資していた友人の失脚により、K社長はブラックな債権者から追われる身となりました。  社長は行方をくらまします。...
縁を切るべき友達の5つの特徴&上手に縁を切る方法とは?
 どんなにコミュニケーション能力が高い人でも、「苦手だな」「付き合いにくいな」と感じる人は、誰にだっているもの。仕事の付...
後ろ足で器用にポリポリ…一緒に“にゃんたま”も揺れちゃうの
 きょうは、首元がカユ~イにゃんたま君です。  首を掻くのに、うしろ脚を使うなんて…ニャイす!  一本だけ爪...
脱いだ作家を守るために…作品を山に埋めた編集者の話 #2
 自分の作品がヘアヌードブームに引っかかることも、世間はこんなにエロが好きで、女性のヌード=男性の下半身への奉仕物、と見...
脱いだ作家を守るために…作品を山に埋めた編集者の話 #1
 女が脱ぐ仕事をするのには、いまも昔も危険や煩わしいことが付きまといます。  私自身、音楽をやっていた頃に自分の作...
お葬式に黒いタイツはダメ?寒い日の防寒対策&喪服のマナー
 真冬にお葬式に参列することになった時、黒のストッキングでは足元が寒いことってありますよね。でも、暖かい格好で行こうと思...
配信者にとっては厄介!「察してもらいたい欲」がすぎるひと
 ライブ配信は、まさに魑魅魍魎(ちみもうりょう)がうごめく世界。今日も今日とて、多くのライバーやリスナーは、配信をめぐっ...
この匂いはあの子かにゃ?チェックに余念のない“にゃんたま”
 猫の嗅覚は、人間の嗅覚の数万倍から数十万倍鋭い、といわれています。  猫の鼻先は常に湿っていて、空気中に流れてい...
今年の実付きは最高!「千両」と共に迎える幸せなお正月
「今年の千両、実付きがいいよ!」  花市場でいつもお世話になっているセリ人のお兄様が電話の向こうで叫んでおります。...
旅行できない今こそ…年末年始におすすめグルメサービス2選
 政府の観光支援策「Go To トラベル」の全国一斉停止が決まり、年末年始の予定を変更した人も少なくないはずです。こんな...
静かな時間の終わりなき毛繕いに感じる“にゃんたま”の美学
 男には自分の世界があるらしいと知ったのは、小学校低学年の頃。  テレビでルパン三世のアニメのテーマ曲が流れていて...
人と仲良くなる6つのコツ&友達作りが上手な人の共通点♪
 社会人になってから、「人付き合いに苦労している」という人は多いはず。学生の頃には、無難にこなしていたはずの人付き合いが...
アンガーマネジメントのススメ~怒りを伝えて我慢にさよなら
 男女問題研究家の山崎世美子(せみこ)です。人間関係のほとんどのトラブルは“怒り”から始まるといっても過言ではありません...