窓の開いた部屋…女はなぜ全裸で床を拭いていたのか?

うかみ綾乃 小説家
更新日:2019-11-14 17:02
投稿日:2019-11-07 06:00

私はこの人に犯されたのだ

 彼女がはっと振り返りました。一瞬、バツの悪そうな顔をしました。そして、「わあ」と、まるでいま気づいたというふうに、手にした布巾を広げます。

G「うっかりこれで、床を拭いちゃったぁ」

私「……いいですよ。私もたまにやりますし」

 私はとにかく全裸の彼女を正視できませんでした。

G「ねえ、お腹空いた? 私がなにか作ってあげる。一緒にお買い物に行こう」

私「今日はこれから、やらなきゃいけない仕事があるので」

G「そんなの、明日だっていいでしょ。どこの会社の原稿? 私が見てあげるよ」

私「Gさんの会社に送る原稿なんです。ちゃんと集中してやりたいんので」

 Gを尊重するような言い方で何度も伝えると、彼女はなんとか了承し、それでもシャワーを浴びたり丁寧にスキンケアしたりと一時間以上がかかり、ようやく帰り支度を終えた彼女を玄関まで送ろうとすると、彼女がおもむろに私に近づき、囁くのでした。

G「ねえ、キスして」

 苦い液が口中に湧きました。でも、これで帰ってくれるのだから……

 私は自分より背の低い彼女のために、身を屈めました。すると、彼女はさらに顔を俯かせるのでした。まるではにかむ少女のように。

 私はさらに、身を屈めなければなりませんでした。その屈んだとき、私はもっとも、自分はこの人に犯されたのだ、との実感を持ち、脳味噌が床に引きずり落とされるような感覚を覚えました。

 次回に続きます。

うかみ綾乃
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小説家
2011年「窓ごしの欲情」(宝島社文庫)で日本官能文庫大賞新人賞受賞。’12年「蝮の舌」(悦文庫)で第二回団鬼六賞大賞受賞。コラムニスト、映画の原作&脚本家としても活躍中。近著に「蜜味の指」(幻冬舎アウトロー文庫)。2020年から原作映画『モンブランの女』(『モンブランを買う男』AubeBooks)が全国で公開中。
ブログ http://ukamiayano.blog.fc2.com/

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