自分を責めていたら…クリスマスイブに「5分だけいい?」

うかみ綾乃 小説家
更新日:2019-11-21 18:00
投稿日:2019-11-21 18:00

「お顔を見にいってもいいですか?」

 やがて彼女は打ち合わせ中に、処方箋の薬袋を取り出して薬を飲むようになりました。私は他人の病気に、自分から立ち入るつもりはないので、なにも言いませんでした

 しばらくして、彼女から突然、LINEが届きました。

G「今夜、5分だけ、綾さんのお顔を見にいってもいいですか?」

 その日はクリスマスイブ。私は家で仕事をしており、Gの「5分だけ」が、けなげを装った演技であることもわかります。「どうしてですか?」と事務的に返しました。彼女のファンタジーでは、こんな冷たい返事が返ってくるのは想定外でした。

G「ちょっと会社で辛いことがあったので、綾さんの顔を見て元気になりたかっただけです。お仕事中、お邪魔しました。けっこうです」

 あえて冷たく返信したのに、こう来ると私は一転、萎縮する癖がはじまります。「けっこうです」という言葉に、パワハラをされてきた失敗体験が蘇ります。

 妥協して返しました。

私「仕事相手に、理由を言われずに来ると言われるのは圧迫を感じます。仕事もありますが、30分だけならけっこうですよ」

G「綾さん、ありがとう。10時には着きます!」

 彼女は、一時間以上遅れた11時に来ました。両手には、デパ地下で買い込んだ食料とお酒が抱え込まれていました。

 次回に続きます。

うかみ綾乃
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小説家
2011年「窓ごしの欲情」(宝島社文庫)で日本官能文庫大賞新人賞受賞。’12年「蝮の舌」(悦文庫)で第二回団鬼六賞大賞受賞。コラムニスト、映画の原作&脚本家としても活躍中。近著に「蜜味の指」(幻冬舎アウトロー文庫)。2020年から原作映画『モンブランの女』(『モンブランを買う男』AubeBooks)が全国で公開中。
ブログ http://ukamiayano.blog.fc2.com/

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